社員通信 ~遊具点検を通して感じる半世紀のときの流れとひっつき虫~

私は現在、『植栽管理業務』に携わっています。

業務のフィールドは主に民間マンションや府営住宅などの集合住宅です。

その敷地内の植栽について樹木剪定・除草・薬剤散布・施肥などの作業を行いながら、年間通じ植栽を維持管理します。

同じ集合住宅の植栽管理業務ですが、民間マンションと府営住宅では、その内容には少し違いがあります。

民間マンションの場合、特に心掛けていることは、「敷地内の樹木の1本1本もそのマンションの資産価値を決める重要な要素となる」という意識を常に持ちながら、植栽を良い状態で維持するよう努めることです。

一方、府営住宅の場合は、住人さんからの樹木に関する困りごとや要望をとにかくていねいに聞き取りして、通行や建物などの妨げになるような障害枝の剪定を行うなど、住人さんの快適な生活を保つよう努めることです。

ところで府営住宅と言えば…さかのぼること半世紀、高度成長の真っ只中、一般的世帯をモデルとした公団住宅が全国各地に広まりました。特に大都市ではものすごい勢いで公団住宅が建設されました。

当時、どこの小学校も教室がパンパンになるほどの子供たち。

団地内でも、放課後は子供たちの声できっとにぎやかだったことと思います。

福井の片田舎で幼少期を過ごした私は、大阪の千里ニュータウンなどのその華やかな暮らしぶりを伝えるニュースなどを、都会の生活への純粋な憧れとともに食い入るように見入ったものでした。

当時は活発であっただろう自治会や子供会や婦人会。また働き盛りの多くのお父さんたち男手によって、敷地内の植栽や設備などは隅々まで手入れが行き届いていたことと思います。

そして昭和→平成→令和と月日は流れ、建物の老朽化、若年層の人口減少、少子高齢化の波は、これら府営住宅をも直撃していきます。

かつてのそれら多くの担い手たちは高齢となり、私たちが樹木の相談などの聞き取りでお伺いする際も、

「年寄りばかりで草取りも低木の手入れもやれる者がもうおらん。荒れ放題で困ってしまう。何とかならんもんかねぇ~。」

など、あまりにも切実なお声を多く耳にします。

限られた予算の中、それらのお声にすべてお応えすることはもちろんできないのですが、できる範囲で協力させていただきたいと思いながらも、解決策はそう簡単には見つからず、難問の宿題を渡されてしまったような重く切ない気持ちを抱えて帰社する日々です。

そしてもうひとつ、府営住宅の関連業務で忘れてはならない重要な業務に、住宅内の公園の遊具点検があります。

夏休み、冬休み、春休みの子供たちの長期休暇前の3回の点検に加えて、秋の定期点検の年間計4回行います。

その目的はもちろん子供たちが安心・安全に遊具を使用できる状態を維持することです。

子供というものは、大人たちが想定する遊び方をするとは限りません。ぐらつきはないか、サビや腐食はないかetc.目視・触診・打診…様々な方法で遊具に潜む危険を見逃さないよう真剣そのものです。

そして、年間4回の遊具点検の中でも、われわれ点検者を特に悩ますのが、夏の蚊、そして秋の草です。

遊具点検を何度も重ねていくと、子供たちの遊ぶ姿がすぐに浮かんでくる公園と、その姿が浮かびにくい公園の2通りあることに気がつきます。

子供たちの遊ぶ姿が浮かんできそうな公園とは、ランドセルをベンチに放り投げて、すべり台やブランコに集まり、わいわいがやがや楽しそうにおしゃべりする声が今にも聞こえてきそうな公園です。

このような公園の鉄棒はサビてはいるものの、たくさんの子供たちの手によって美しく磨かれツルツルピカピカ黒光りしています。遊具の周りにもやたらと背の高い草は見られません。
子供たちがひっきりなしに走り回るからです。

子供たちが元気に走り回っています。 遊具周辺は草が生える暇もありません。

たくさんの子供たちの手によって美しく磨かれた鉄棒は、ツルツルピカピカ黒光りしています。

一方、子供たちの遊ぶ姿が浮かびにくい公園とは、同じサビついた鉄棒でもこちらは磨いてくれる子供たちの手はなく、表面はザラザラで光沢はありません。われわれ点検者が軽く握るだけで、サビ色で手はあっという間に汚れてしまいます。

うっかり握るとケガをする恐れすらあります。

すべり台の昇降ステップの3段目ぐらいまでツルが巻きつき周囲は背の高い草で覆われ、遊具にたどり着くのも困難なこともしばしばです。

伸びきった草で遊具の一部は覆われてしまい、遊具が容易に見つからないこともあります。

このような公園の遊具点検を行うときは、ついつい時の流れに思いをはせて、少し感傷的になってしまいます。

これらの草をかき分けかき分け、今からすべり台の点検に向かいます。

 

最後にこの鉄棒で子供たちが遊んだのはいつなのかな…。

 

蚊に刺されまくり、草やツルと格闘しながら、ようやく点検を終えて、とにもかくにも草むらから脱出します。

脱出に成功してようやくホッとするのもつかの間、ふと足元を見てビックリ!!

作業ズボン全面に無数のひっつき虫!!このひっつき虫を取り除くまでは、トイレにもコンビニにも入れません。

つい先ほどまでの、時代の栄枯盛衰のセンチメンタルな感情にいつまでも浸ってはいられません。

このひっつき虫(アメリカセンダングサ)との格闘を終え、ようやくその日の遊具点検は完了となります。

作業ズボン全面ひっつき虫!!今からこれらひっつき虫との格闘です。

(2021/9/2 K.Y)